校長室だより

式辞(第64回卒業証書授与式)

令和5年度第64回卒業証書授与式

 

 校長 式辞

 

 式辞 ここ数年で国際社会情勢、日本経済の根本、教育界全体の在り方や、今まで変革を要しなかった不易の流れが、大きく変わったこと等を、今まさに実感しています。あわただしい毎日を過ごしている中でも、季節の変化が、本格的な春を連れて来ようとしています。暖冬が続くと思いきや、降雪に悩まされる事態に対応せざるをえない様相は、まさに自然現象に立ち向かう我々が持つ、力の小ささを露呈しているかのようです。

 

 しかしながら、元日に発生した能登半島を中心とする震災においては、多くの方々の犠牲の下、あの時を忘れないという強い気持ち。協力・協調・協働の基、力強く生きていくという、人間が元来持つ屈強な精神力を感じてしまうのは、私だけではないはずです。今でも多くの方々が避難所生活を強いられ、学校生活や卒業式をも満足に行うことができない現状を垣間見ると、今日のこの日を迎えられた事は何物にも代えがたい感があります。まずもって、被災された皆さんに対し、お見舞いを申しあげるとともに、尊い命を落とされた方々への哀悼の意を表したいと思います。

 

 私自身、三年間の就業を、ここに終える皆さんに対して、このよき日に、式辞という形で言葉を伝えることができることは、本当にうれしい限りでございます。

 

 本日は来賓席より、PTA会長様 をはじめ、本校の学校運営を支えていただいた、学校評議員の皆様方に、御臨席賜りましたこと、このよき日に、式場全体に、花を添えていただいたことに対し、最大限の感謝を申しあげます。本当にありがとうございます。

 

 只今卒業証書を授与され、ここに晴れやかに卒業を認定されました、三五六名の卒業生の皆さん、卒業誠におめでとうございます。また、ここまで御子息、御子女の成長を見守りつつも、三年間の中で、幾多の困難に遭遇しながら、共に前を向き、歩んでこられた保護者の皆様方に対しましても、本当におめでとうございます。という言葉を述べさせていただきたいと思います。

 

 さて、冒頭に申しあげた通り、幾多の困難に打ち勝つこと、変革の波に乗る。のまれないためにも必要になってくることは、目線を変えて物事に対峙することなのです。プロゴルファーがカップインを狙い、グリーン上の様々な位置からボールを見るのは何故か。また、映像の臨場感を増すため、テレビ局の番組制作者はドローンを多用し、鳥瞰図のように広義的な視野の中から、位置や方向づけを見出す工夫をするのは何故か。それは、固定化された場面から全体を把握することも大切ですが、主観に頼らず、より客観的に事態を把握することが大切だと感じるからです。単一的な視野から見る景色と、複眼的視野から見る景色との差は歴然な差があり、固定観念からの脱却がいかに大切かを教えてくれています。

 

 また、大局的に自らの思考や裁量権を行使するためには、物理的・精神的な中に宿る「余白」を利用する、楽しむ心も大切であると言われています。「余白」とは、作成した文章の四方向に発生する空白部分であり、通常、多くは何も記されない、記述されない部分です。この部分にあえてものの見方や思考、考察、判断や情報を記し、中心部に清書して文言化、文章化することが考察力を深化させる方策として提唱させています。行動面からは、「余白」の中に「余裕」をもって生活することが求められます。普段よく目にしているホームページや、モバイルから提供される情報も、びっしりと詰まっていてカラフルなものよりも、シンプルなものの方が見易く捉えやすく感じます。また、行きたいページや箇所を見つけやすいという利点もあります。

 

 いくら、仕事上で活躍しても、類まれな技術や創造力をもっていても、白の「余白」 = ゆとりや空白がないと、黒の部分 = 本質が台無しに。スケジュールがビッシリで忙しい。個人的な時間がとれない。趣味や余暇に時間が割けない。心のゆとりがないというのは、白(余白)のバランスが悪いからなのです。

 

 「余白」は主に物理的な空間や時間の空白を指し、余裕は心理的なリソースや能力を指します。両者を組み合わせることで、より充実した生活や効果的な仕事をすることができます。「余白」を持っていると、「余裕」が生まれやすく、逆もまた然りです。

 

 昔から、「親の背を見て子は育つ」と申します。さらに今は、親の生き方までを、子が注視する時代になったのかも知れません。卒業する皆さんは、これから様々な道を歩んでいきますが、身体的・精神的・社会的に良好な生活をおくるとともに、自らの姿そのもの、生き様に対し、他人から憧れを抱かせるような人物になっていただきたいと思います。行動に対しては常に一呼吸置き、「余裕」を持つ中から「余白」を楽しみながら充実感を持つ。工夫する生き方を実践していってください。また、その中で共存する、共生していく仲間たち同士が、幸せや、生きがいを感じられるような社会づくりに、皆さん自身が貢献していただきたいと思います。明るい未来を構築できるのは、若い感性を持続することができる、ここに集った三五六名なのです。

 

 最後になりますが、お子様の成長を喜び、本日を迎えることができた保護者、御家族の皆様、繰り返しになりますが、本当に御卒業おめでとうございます。月日が流れるのは早いものです。今後ますます、その情景が心に染み入り、振り返ることになるかもしれません。また親子で気持ちが高揚することも、今日が最後になるのかも知れません。なぜならば、お子さんは明日から成人として自らの意思で行動していかねばならないからです。是非、今までの生活全般をかえりみるとともに、今日がより良い一日となるよう、心ゆくまでお話合いいただければと思います。

 

 卒業生の皆さん。皆さんが残してくれた魂の片鱗を、ひとかけらだけでも良いのです。是非、上尾高校の若い命の泉に残していっていたければと思います。

 

 持続的な幸福を夢見るとともに。

 上尾高校は永久に皆さんの、我らの母校なのです。

 本日は誠におめでとうございます。

 

 令和六年三月九日

                     埼玉県立上尾高等学校  校長  嶋村 秀樹